2008年11月12日水曜日

作品について

−鋳型と鋳物、ポールとカミーユ、相反する表裏一体の合せ鏡から生まれる物語−


もともとこの作品は近年、川口市で開催された「二人のクローデル展」の展示内容(ポールの直筆の書籍や詩、カミーユの彫刻)からインスピレーションを受けた今井尋也が、ポール・クローデルの詩劇「火刑台上のジャンヌダルク」を参考にしながら、川口市民劇の為に書き下ろした作品です。

舞台は複式夢幻能の構造を持ち、喜多流の米国人の能楽師リチャード・エマートが旅の僧となって、川口に現れ、キューポラ工場に住んでいるという怪しき風情の女(白拍子:桜井真樹子)に出会うところからはじまります。
旅の僧は、クローデルが大使館員として日本に駐留していた頃に書き溜めていた「幻の物語」を探していた。
しかしそれは、関東大震災によって行方不明になったという。
キューポラ工場でその「幻の物語」の書物は見つかるのだが、物語を読もうとすると中の文字が次から次へと消えていくという奇異な現象が起こる。
工場に居合わせた市民劇のメンバーたちは失われた物語を探して、中世のフランスと現代の日本を旅するうちに、ポールカミーユの幼少時代から、カミーユが晩年を過ごした南仏の精神病院まで行くことになる。
そうして「幻の物語」が見つかるやいなや、川口の女は自分がジャンヌダルクの亡霊だと告げて、火刑台の業火の悲劇を語り始める。

今回は工場の社長をはじめ、工場側の全面的な御理解と御協力の元、役者、スタッフ、演出家が工場に度々足を運び、実際に工場の労働現場を体験し、川口におけるキューポラ文化を捉えなおそうとしています。
このことは深く作品の世界観に影響してくることでしょう。
また、一般公募によって出演者、スタッフを川口の市民から募り、老若男女、フレッシュな顔ぶれが揃いました。
川口市民劇にふさわしいメンバー構成になっています。

クローデルの描こうとしたジャンヌダルクの生き様、信仰に対するエネルギーは、信仰からすっかり遠く離れた私たち現代人の心にも、きっとなにかを呼び覚ます力を持つことでしょう。
私達はキリスト教の世界を賛美したり、容易に受け入れたりしようとしているのではなく、神のいなくなった、この殺伐とした現代において、いかに近代人として生きていくべきか、そんな問いにも答えようとしているのかもしれません。

この作品が、クローデル川口市民、フランスと日本、中世と現代、キリスト教社会とキリスト教以外の社会のささやかな橋渡しの役目を果たすことを願っています。


モルタル劇場代表
今井尋也

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